自律神経失調症 身体表現性障害(身体症状症)について
大学時代の外来診療において、多くの方が身体症状について悩みを抱えていることを実感し、こころと身体の関連について研究し、国際的にも多くの論文を発表してきました。
ここでは、そのメカニズムについて、心理学的視点・生物学的視点について述べさせていただきます。
こころと身体の関係
こころと身体は密接な関係にあります。特に身体症状を有する方は、身体に対する「とらわれ」の心理機制が働いていると言われています。
その背景にあるのが、以下に示す心気症状という概念です。
「心身の些細な不調に著しくとらわれ、これに必要以上にこだわって、重篤な疾患の徴候ではないかと恐れ、その心配を訴え続ける状態」 (吉松 1987)
この心気症状を有する方は、不快な身体感覚や心気的不安を排除しようと、様々な医療機関を受診する傾向にあります。しかしながら、これらの努力で逆に「とらわれ」の心理機制が強くなり、不快な身体症状の増悪につながります。
このような「とらわれ」は悪循環を生じます。自分の不快な感覚に気付き、排除しようと注意を向けることで、その感覚が増大します。
したがって、この「とらわれ」を呈示させていただくことにより、疾患に対する理解を深めていただきます。
脳と身体症状の関係
扁桃体と交感神経
身体の不快な感覚は不安を増大させます。不安が増大することにより、脳の扁桃体という部分が活性化されます。扁桃体の過剰な活性は、情動の不安定化をもたらします。情動とは、怒り、悲しみ、恐れ、喜びといった快・不快の強い感情です。
また、扁桃体が過活動になると、ノルアドレナリンやコルチゾールの濃度が上がり、交感神経が有意な状態をもたらし、結果として、不快な自律神経系の身体反応に至ります。
前頭葉と扁桃体
では扁桃体の過活動を抑制するものは何でしょうか?我々は、前頭葉機能が扁桃体の過活動を抑制することを発見しました。
前頭葉の中でも、前頭前皮質という部分の活動がアンバランスになることで、扁桃体の抑制が困難となり、交感神経優位な状態が続きます。
治療について
①「とらわれ」の悪循環を自覚する
治療過程における最初の段階は、「とらわれ」の悪循環を理解していただくことにあります。これは心理的アプローチにおける最も重要なポイントです。図式を用いてご説明させていただくこともあります。
②扁桃体の過活動を抑制する
次にこのような「とらわれ」により過活動となった扁桃体を抑制します。アドレナリンやコルチゾールが過剰に放出されており、交感神経が優位となっている状態を修正します。我々は、みなさまにまずは「一拍おく」ということをおすすめします。
例えば、その場を離れて一人になり5分程度深呼吸する、少しだけ外出してウォーキングをするなど行動の変化をおすすめしています。また、それでも行動の変化を日常に取り入れることが難しい場合が多いのは事実です。そのような場合には、適宜向精神薬による加療を取り入れます。
③前頭葉機能のアンバランスを
修正する
最終段階として、扁桃体の過活動を抑制する前頭葉機能にアプローチします。前頭葉機能は誤った知覚を修正したり、柔軟性や自己を客観的にとらえることと関連します。このアンバランスを修正するために、森田療法的アプローチやマインドフルネスの考えがベースとなっているアクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and Commitment Therapy; ACT)といった精神療法を行います。
【参考文献】
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Inamura K, Shinagawa S, Nagata T, Tagai K, Nukariya K, Nakayama K. Executive Dysfunction Correlated With 2-Year Treatment Response in Patients With Late-Life Undifferentiated Somatoform Disorders. Psychosomatics. 2016;57(4):378-389. doi:10.1016/j.psym.2016.02.006
稲村 圭亮【日常診療における病識・病感・負担感の取り扱い-治療効果を高めるための工夫-】身体表現性障害における洞察 疾患モデルからの解釈 臨床精神医学 46(12) 1533-1538 2017年12月