認知症性疾患の症状について
認知症の原因となる疾患は数多くあります。正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、甲状腺機能障害、ビタミンB群欠乏、薬剤によっても認知症症状を呈することもあります。これらは「治る認知症(Treatable Dementia)」とも呼ばれ、原因となっている疾患の治療により改善するため、これらを見逃さないことが大切です。
認知症の診断は、これらを除外したうえで行われます。神経変性という特定の脳の神経細胞の障害や脳出血や脳梗塞など、不可逆的な変化により、慢性的に進行する認知症の中で、比較的頻度の高い原因疾患となる4大認知症について概説します。
4大認知症
アルツハイマー型認知症
認知症の原因となる半数以上はアルツハイマー病と言われています。病初期から記憶障害を呈し、特に、「いつ、どこで、何をしたか」という出来事の内容(エピソード記憶)の障害が、病初期から目立ちます。
物を置いた場所を忘れてしまう、同じことを何度も聞き返すといった症状は、障害に起因するものです。また、日付の感覚があいまいになるといった見当識の障害などがみられることもあります。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血といった脳血管障害に関連して出現する認知症の総称です。脳血管による血流障害の部位や程度により、症状は様々です。細い血管の梗塞(ラクナ梗塞)が多発すると、主に前頭葉への血流低下につながり、怒りっぽさなどの症状を呈します。
一方で、より太い血管の梗塞や出血などで損傷の範囲が広い場合は、視空間認識の障害や物の使い方などがわからなくなるなどの症状を呈することもあります。症状は脳の損傷部位や程度によりさまざまです。
レビー小体型認知症
病初期から中期にかけては記憶障害があまり目立たない点が大きな特徴です。幻視、認知機能の変動、パーキンソニズムが主症状として挙げられます。
レビー小体型認知症での幻視は、動物や人など具体的でありありとしたものが特徴です。誰かがいる気配を感じるといった実態意識性という症状や人が入れ替わっているという人物誤認といった症状も呈することがあります。
前頭側型認知症
前頭葉の変性が原因となる前頭側頭型認知症では、病初期から他人の感情や表情の理解する能力(社会的認知)の障害により共感性が欠如することで、怒りっぽさなどを呈するすることがあります。
また、側頭葉症状が目立つタイプでは、言葉の意味が理解できないといった意味記憶の障害により、ものの使い方がわからなくなるといった症状が出現します。
治療について
認知機能障害に対する抗認知症薬の投与を行います。本邦では4種類の抗認知症薬が承認されており、それぞれの方に合わせた抗認知症薬を選択します。
また、抗認知症薬による治療はもちろんですが、介護者の方の多くは、認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に対して負担を感じています。BPSDとは認知症に伴う認知機能障害を基盤に、身体的因子・環境的因子・心理的因子といった様々な要因の影響を受けて出現する症状を指します。
BPSDには多種多彩な症状が含まれますが、頻度の高い代表的な行動症状としては、攻撃性・抵抗・脱抑制などが挙げられ、心理症状としては、妄想・幻覚・抑うつ・不安などが挙げられます。
これらのBPSDへの介入が介護負担を軽減し、認知機能の低下予防にもなることが知られています。BPSDの多くは、環境調整により軽減することが知られています。したがって、介護認定などの適切な社会資源の導入により環境調整を行い、同時に介護者の方の負担を軽減することが必要です。また、BPSDが難治の場合は、少量の薬物療法を行うこともあります。