高齢者の方のメンタルヘルスの重要性
日本における65歳以上人口は、「団塊の世代」が65歳以上となった平成27年に3,379万人となり、「団塊の世代」が75歳以上となる令和7年には3,677万人に達すると見込まれています。
高齢化率が高まるにつれ、高齢者の方におけるメンタルヘルスへの介入はより重要となりますが、適切な医療を提供されている方は少ないのが現状です。
高齢者の方におけるメンタルヘルスへの介入には、下に示すようなさまざまな因子を理解しなければなりません。
高齢者の方の心理的背景
高齢者の方は、配偶者や近親者の死といった喪失体験、経済状況、社会的孤立とそれに伴うサポートの欠如といった周囲を取り巻く環境の変化により、自身も老化に直面化せざるを得ない状況となります。
これらの環境の変化は、加齢とともに必然的に生じるライフイベントであり、これらの状況から脱却することが難しいのが事実です。
高齢者の方におけるうつ病エピソードは、これらのライフイベントに対する反応として二次的に出現することが多いことが知られています。
高齢者の方のライフイベント
- 配偶者や近親者との死別
- 退職などに伴う社会的役割の喪失
- 社会情勢や経済状況の不安
身体機能の低下
- 健康に対する不安
- 慢性的な身体疾患の罹患
- 問題処理能力の低下
- 筋力や体力の低下
高齢者の方のうつ病の症状について
高齢者の方のうつ病は若年者とは異なり、抑うつ気分などのうつ病の基本症状よりも倦怠感・痛み・しびれなどの身体愁訴や体重減少を主訴とすることが多いことが知られています。
それ以外にも、不安・焦燥が目立ちやすい、もの忘れなどの認知機能低下を訴えることもあります。
身体疾患との関係
高血圧・糖尿病・高脂血症などの慢性的な身体疾患を有する高齢者の方はうつ病に罹患しやすいとも言われています。
身体疾患に伴う日常生活の制限がうつ病を遷延させる要因であることも報告されています。うつ病を有する高齢者の方の半数以上が2つ以上の慢性的な身体合併症に罹患していると報告されています。
慢性的な身体疾患の罹患がうつ病のリスク因子ともなる一方で、うつ病自体が慢性身体疾患を長期化させることも知られています。
高齢者における多剤併用とうつ病エピソードの関係
近年、高齢者の方に対するにおける多剤併用が問題となっています。それに伴い、本邦では2015年に、75歳以上の高齢者に対し、服薬数の減少および薬剤有害事象の回避を目的とし、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」が策定されました。
米国での調査では、65歳以上の一般地域住民の40%以上が5剤以上の処方がなされており、12%の高齢者が10剤以上の投与を受けていると報告されています。
近年の報告では、高齢者の方うつ病は多剤併用と関連していると言われています。したがって、このような多剤併用を避けるために、それぞれの方の取り巻く環境や身体科の薬との関連に十分に注意する必要があります。
高齢者の方のうつ病の特徴
- 心理的な問題を身体的な問題として
解釈しやすい - 身体の訴えや食思不振などの
症状として出現することが多い - 慢性的な身体疾患
(高血圧・糖尿病・高脂血症)は
うつ病のリスクになりやすい - 薬の種類が多い方は
うつ病と関連しやすい